思想

モラトリアムとは?背景から現代社会への影響まで徹底解説!

はじめに

モラトリアムという言葉、最近よく耳にしませんか?

「モラトリアム期間」「大人になる前の猶予」など、何となく「将来のことはまだ先送りしたい」という気持ちと結びつけてイメージされる方も多いかもしれません。

実はこのモラトリアムという概念は、心理学社会学をはじめさまざまな文脈で使われてきたものです!

特に日本では、若者文化や社会構造の変化と結びついて語られることが多く、現代でも根強い影響力を持っています。

モラトリアムの誕生と背景

モラトリアムの語源と歴史的ルーツ

「モラトリアム (moratorium)」という言葉は、ラテン語の「morari(遅らせる・とどまる)」に由来すると言われています。

もともと金融の世界では、返済などの義務を一時的に停止、または猶予するという意味で使われていました。

例えば、経済的危機などが起きた際に「支払いモラトリアム」が発動されることがあるように、元来は「一時的な猶予期間」というニュアンスが強かったのです!

しかし、現代では心理学や社会学の領域においても「モラトリアム」という言葉が広く使われています。

そのきっかけを作ったのが、心理学者エリク・H・エリクソン(Erik H. Erikson)です。

エリクソンは人間の発達を「乳児期から老年期までの8つの段階」に分けて考える発達段階理論を提唱しました。

彼の理論では、特に青年期(思春期〜20代前半あたり)は自分のアイデンティティを確立する重要な時期とされ、社会や家族からの期待と、自分がなりたい姿とのあいだで揺れ動く時期だと説明されます。

そのなかでエリクソンが注目したのが、この青年期に訪れる「猶予期間 (moratorium)」です。

若者がまだ大人としての責任を負わずに、将来の方向性を模索する期間を指し、「一時的に社会的役割や義務を猶予される」という状態を示す概念として使用されるようになりました。

日本社会におけるモラトリアムの受容

このエリクソンによるモラトリアムの捉え方は、戦後の日本にも影響を与えました。

特に高度経済成長期以降、大学進学率の上昇や就職制度の変化によって、若者が社会人として本格的に責任を持つ前に準備期間を過ごすというライフスタイルが広まります。

大学生時代は「まだ本気で働かなくてもいい」とされ、就職先を見定めたり、留学やフリーター生活を選んだりする若者が増えました。

1970年代以降になると、精神分析医の小此木啓吾が「モラトリアム人間」という言葉を広め、社会学や文化論的な文脈でも「大人になることを先延ばしにする若者」の現象が注目されるようになります。

日本独自の就職氷河期やバブル崩壊などの背景もあり、「先が見えないからこそ、いまはまだ責任を背負いたくない」「明確な目標を見つけにくい」という感覚が、モラトリアムをさらに強く意識させる要因となっていったのです。

モラトリアムの詳細と特徴

心理学的モラトリアム:アイデンティティ確立の遅れ

エリクソンの理論によれば、青年期はアイデンティティ(自分は何者なのか、何をしたいのか、どう生きたいのかといった自己像)を形成するうえで非常に重要な時期です。

しかし、社会や親の期待、自分の理想や興味などが複雑に絡み合うため、一朝一夕で結論を出すのは難しいもの。

そこで、一時的に本格的な責任や義務を免除される猶予期間があることで、若者は「自分探し」をじっくり行い、試行錯誤を繰り返すことができます。

この「アイデンティティ形成のための猶予期間」としてのモラトリアムは、あくまで建設的に自己を模索する時間というポジティブな側面を持ちます。

人生の方向性を見定めるために大学や大学院に進む、自分に合った働き方を探すために様々なアルバイトをする、海外に行って視野を広げる——そうした選択を後押しするものでもあるのです!

一方で、モラトリアムの時期が長引きすぎると「大人になること」を避け続ける状態になりかねない、というリスクも指摘されています。

いつまでも定職に就かず、「もう少し考えてから」「もう少し自分に合った仕事を探してから」と先延ばしにし続けるうちに、本来の猶予が自らの成長を阻む足かせになることもあるのです。

社会学的モラトリアム:責任の先送りと社会的認知

社会学の観点から見ると、モラトリアムは「社会からの要請(=大人としての役割や責任)にすぐに応えなくてもいい時間帯」を意味します。

経済的安定や結婚、子育てといったライフイベントを先延ばしにすることで、気楽に見える生き方を選択できる一方、当事者が「いつかは現実を直視しなければならない」と感じつつも踏み出せない状況が生まれることも少なくありません。

特に、日本社会では大学生に対して「就職するまでが自由」という認識が長らく存在しており、これがモラトリアムを助長する一因ともなっています。

バブル経済が崩壊した後の就職氷河期やリーマンショック以降の景気後退など、社会構造的な問題も重なり、「いつまでも自分に合う進路を探すしかない」という若者の悩みが深刻化していきました。

こうした背景もあり、モラトリアムは個人だけの問題ではなく、社会全体の問題として取り上げられるようになったのです。

モラトリアムが与えた影響

青年心理学への影響

エリクソンが提起した「モラトリアム」の概念は、その後の青年心理学に大きな影響を与えました。

特にアイデンティティ形成や青年期の発達課題を語るうえで欠かせないキーワードとなり、研究者や教育者のあいだでも広く知られるようになりました。

「青年期にはモラトリアムが必要だ!」という認識は、学校教育やキャリア支援の現場にも波及しています。

例えば大学や専門学校でのキャリアガイダンスでは、「いろんなインターンシップやアルバイトを経験して自分の将来を考えるのも大事」というように、試行錯誤する過程を尊重する姿勢が生まれています。

以前は「一度就職したらもう転職は難しい」という風潮が強かった日本ですが、現在では一度会社に入ってみてからまたやり直す、あるいは大学に入り直すといった柔軟な選択も少しずつ認められるようになってきました!

社会構造への影響

一方でモラトリアムが長引く若者が増えると、「社会の生産年齢人口の減少」「家族制度の変化」「少子化・晩婚化」など、経済や社会全体に影響を及ぼす側面があります。

若者が就職時期を遅らせたり、結婚・出産を先延ばしにすることで、労働力の不足や社会保障制度の維持といった課題が深刻化するのです。

とりわけ日本では、長引く不況や非正規雇用の増加もあいまって「モラトリアムではいたくないけど、結果的にそうならざるを得ない」という層も増えました。

経済状況が厳しいと、選択の幅が狭くなり、結局は「もう少し待てば状況が良くなるかもしれないから」と転職や進学を繰り返すケースが多くなります。

これが若者の自己肯定感や社会への信頼感の低下につながることもあり、社会的課題として捉えられるようになりました。

現代におけるモラトリアムの捉え方

多様化する生き方とモラトリアム

現代では、インターネットやSNSの普及により、就職や働き方の選択肢が格段に増えました。

フリーランスや副業、リモートワークなど、従来の「会社に勤める」という形だけではない働き方が一般化しています。

そのため、従来型の「大企業に入り、結婚して家庭を持つ」というモデルにこだわらない若者も増えてきました。

こうした時代背景のなかで、「モラトリアムを迎えながらも、自分らしい生き方を追求する」人たちが増えているのは確かです。

一方、「やりたいことが多すぎて決められない!」「人生100年時代だからゆっくりキャリアを考えたい」という声もよく聞こえてきます。

若者に限らず、30代や40代になってからも新しい学びに挑戦する人が増え、モラトリアム的な状態が人生のいろいろなタイミングで発生するようになってきました。

つまり、モラトリアムが青年期だけの特権ではなくなっているとも言えるのです!

新自由主義社会が生むモラトリアム問題

同時に、新自由主義的な経済体制が世界的に進行したことで、競争の激化や雇用の不安定化がさらに進んだ面も否めません。

「自己責任」という言葉が広く使われるようになり、「やりたいことがあれば自分で勝手にやればいい」「ただし失敗しても自己責任」という風潮も強まってきました。

こうした社会では、決断を先送りにすることは一種の防衛策として作用します。

なぜなら、一度誤った進路を選択すると、再チャレンジが難しい状況に追い込まれる可能性があるからです。

その結果、いつまでも保留したままのモラトリアム状態が長引き、行き詰まりを感じる人が少なくありません。

モラトリアムと上手につきあうために

ポジティブな活用と成長のチャンス

モラトリアムは必ずしも悪いものではありません。

一時的に余裕を持って将来を考え、自分に合う道を模索できるのは大きなメリットです!

「社会的責任を一時的に免除される期間」と考えれば、さまざまなことにチャレンジし、自分の能力や興味を見極める絶好の機会でもあります。

たとえば、大学在学中の留学やインターンシップは、将来のキャリア選択の参考になるだけでなく、自分の可能性を発見するチャンスにもなるでしょう。

また、社会人になってからでも、資格取得や副業、週末のコミュニティ活動などを通じて、新たなスキルを身につけるきっかけにできます。

モラトリアムが長引くリスクと対処法

しかし、モラトリアム期間が長すぎたり、「自分探し」を言い訳にして行動を起こさなかったりすると、後になって大きなツケが回ってくることもあります。

たとえば、就職が遅れて貯金が少なくなったり、社会的な経験値が不足して苦労したりする可能性も否定できません。

大切なのは「モラトリアムは一生続くものではない」という認識を持ちながら、計画的に行動すること

自分の目指す方向をある程度イメージしたうえで、行動の期限を設定したり、必要なスキルを着実に身に付けたりすることで、モラトリアムからの卒業をスムーズに進められます。

たとえば、大学生のうちに「この期間にどんな挑戦をして、卒業時にはどんなスキルを身につけたいのか」を考えて行動するのと、ただ漠然と「大学が終わるまでまだ時間があるし、なんとかなるだろう」と先延ばしにするのとでは、大きな差が生まれるはずです!

ぴろき

やっぱり人生、「ここぞ!」という場面は訪れる。その時には全力コミットが必要。
だからこそ、モラトリアムの期間をどのタイミングで・いつまで取るのかは、自分で考えることが重要だね!

おわりに

モラトリアムの概念は青年期だけにとどまらず、様々な年代での「人生の一時保留状態」を表す存在として認知されるようになりました。

ポジティブに捉えれば自己成長のための大切な猶予期間ですが、長期化すれば「現実逃避」や「社会的責任の先送り」のリスクを伴う、両刃の剣でもあります。

しかし、モラトリアム自体を悪者扱いするのではなく、「うまく活用するにはどうすればいいか?」という前向きな問いかけこそが重要ではないでしょうか。

人生が長くなり選択肢が多彩になった今こそ、モラトリアムを実りある猶予期間として使いこなす力が求められています!

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