最近よく耳にする「FIRE(経済的自立・早期リタイア)」。
「若いうちにたっぷり自由時間を手に入れて、ゆったり暮らしたい!」と思う人も多いかもしれません。
でも、本当にそれが幸せへの近道なのでしょうか?
今回は、「FIREは人を幸せにするか?」という問いに対してあるシンプルな思考実験をやってみたところ、ちょっと意外な結果が出ました。
結論から言うと、「35歳でFIREしても、70歳を過ぎてようやく得になる」というのです。
さらに、40歳を超えてFIREしても、他のシナリオより幸福度が高まることはないという驚きの見立てに。
なぜそんな結論に至ったのか、詳しく解説していきます。
きっかけは『DIE WITH ZERO』と「思い出」の大切さ
FIREブームが過熱する一方で、筆者は「コツコツ投資して早期リタイアする」ことに、なんとなく違和感を持っていました。
そんな時に出会ったのが『DIE WITH ZERO』という本。
「人生の幸福度は、どれだけ思い出をたくさん作り、それをどれだけ楽しめたかで決まる」という考え方に非常に共感したのです。
この考え方に準拠すると、「若いときに作った思い出ほど、後から振り返る回数が多く、結果的に幸福度を大きく押し上げるのでは?」という仮説が生まれてきます。
この仮説を検証すべく、ざっくりと数値計算(というより思考実験)をしてみました。
検証結果サマリ
検証条件等については後ほど解説しますので、ここでは検証結果の簡単なサマリをお伝えします。
35歳でFIREしても70歳を過ぎるまでは「普通に働きつつ思い出作りも続ける人生」より幸福度が低いという結果に。
さらに、40歳FIREの場合は、最後まで他シナリオより上回るタイミングがないという、なんともシビアな結論になったのです。
試算方法(読み飛ばしてもOK)
「試算」といっても、すごくシンプルなモデルを立てただけです。
着目したのは、先ほど提示した「思い出をどれだけ持っているか」と「それを思い出す回数」が幸福度に繋がる、という考え方。
例えば30歳で思い出を2つ獲得すれば、思い出が1つしかない場合よりも2倍幸福である、と考えることができます。
さらに90歳まで生きるとして、以降の60年間にわたり思い出を楽しみ続けることができますね。
評価指標
前述の仮説に基づき、「思い出を思い出す回数」を幸福度の指標と設定しています。
試算のシナリオ
下記4つの人生シナリオを比べてみました。
- コツコツ思い出作りシナリオ
- 20歳から働きつつ、毎年1つずつ思い出を作る
- ずっと定年まで働き、その後も同様に毎年1つずつ思い出を作る
※仕事を辞めることで、起きている時間のうち自由時間が約2倍になる(睡眠時間8時間、労働時間8時間、残りの自由時間8時間)。一方で、定年後は全力で身体を動かす元気や好奇心が減退していると考え、毎年1つずつに設定した。
- 35歳FIREシナリオ
- 35歳までは“思い出ゼロ”で全力労働
- 35歳~65歳までは毎年2つずつ思い出を作る(FIREで自由時間増)
- 65歳~90歳までは毎年1つずつ思い出を作る
- 40歳FIREシナリオ
- 40歳までは“思い出ゼロ”で全力労働
- 40歳~65歳までは毎年2つずつ思い出を作る
- 65歳~90歳までは毎年1つずつ思い出を作る
- 定年までノンストップ労働シナリオ
- 65歳まで“思い出ゼロ”でずっと働く
- 65歳でやっと時間ができ、そこから毎年1つずつ思い出を作る
計算方法
- 毎年、その年までに作った全思い出を1回ずつ振り返ると仮定
- こうして、一生涯で「思い出を思い出した総数」をざっくり求めました
結果:なぜ「35歳FIRE」は70歳以降まで他シナリオに追いつけないのか?
今回の思い出数シミュレーションでは、
- 「働きながらコツコツ思い出を作る人生」が最も効率的
- 35歳でFIREしても、そのメリットが出るのは70歳以降
- 40歳FIREだと、最後まで他シナリオに追い越せない
- 定年までノンストップ労働は「論外」レベルで幸福度が低い
という結果が出ました。
考察:FIREは「人生の自由度を上げる」けれど…
FIREしても、自由時間は思ったほど増えない
よく考えると、1日24時間のうち、睡眠時間8時間・仕事8時間・自由時間8時間に使っている人が多いですね。
そうすると、仕事をやめても自由時間は1日8時間→16時間と、せいぜい2倍になる程度です。
FIREしなければ自由時間を確保できない気がしてしまいますが、実は働きながらでも自由時間は結構あるんですね。
それよりも、若いときから「ちょっとした空き時間」を使ってどんどん「思い出」を積み重ねていくほうが、人生の総幸福度(振り返り回数)は高くなるようです。
若い時の方が作れる思い出の幅が広い
今回の試算では考慮していませんが、若い時の方が身体も元気で背負うものも少ないため、様々なことに挑戦しやすいです。
還暦を過ぎてからボディビル大会に出場することは、不可能ではないですがかなり難しいですよね。
若い時の方が、色々な思い出を作る力は強いのです。
ただ、「35歳まで必死で働いて思い出ゼロ」だと、若い時期の一番楽しいエネルギーを使う機会を逃すことにもつながります。
まとめ:結局、どんな生き方が幸せなのか?
今回のシミュレーション結果を踏まえると、
コツコツと働きながらも、若いときから思い出を増やす努力を使用!そして積極的に振り返ろう!
というのが結論です。
「仕事を頑張って収入を増やす」と「自由な時間を増やす」のどちらも大切。
でも、人生全体を見据えると、若いうちに作った経験は後から振り返る回数が多い分、幸福度を押し上げる効果が高いんですね。
FIREそのものを否定するわけではありません。
ただ、世の中に溢れる「FIREで人生ハッピー!」的な情報をうのみにせず、
「自分はどの時期に、どうやって幸せになるのか?」を考えるきっかけにしてもらえたらと思います。