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経験主義とは?歴史から思想家、後世への影響までわかりやすく解説

2025年1月17日

はじめに:経験主義とは?

みなさんは何か新しいことを知るときに、どのように学ぶでしょうか?

本を読む、人から話を聞く、自分で実際にやってみる…さまざまな方法がありますよね。

この「実際に体験すること」、つまり「経験」を重視する考え方が「経験主義」と呼ばれています!

日本語で「経験主義」と書く通り、ものごとを理解し判断する基準として「経験」を大切にしようという立場です。

英語では “Empiricism” といい、哲学の分野で盛んに議論されてきました。

経験主義の対極には、「理性や思考を重視する」考え方である「合理主義(Rationalism)」があります。

では、なぜわざわざ「経験主義」と名前をつけて主張しなくてはいけなくなったのでしょうか?

その背景には、人々が「知識」をどのように獲得するかについて真剣に議論しはじめた歴史があります。

経験主義がどのように生まれ、どのように展開してきたのか、そのお話をこれからたっぷりとご紹介していきます!

歴史的背景:なぜ経験主義が出てきたのか?

古代から中世への流れ

実は「経験を重視する」という発想自体は、古代から存在していました。

古代ギリシャの哲学者アリストテレスも、観察や経験を重んじる姿勢を持ち、「知識は経験からはじまる」という含みの言葉を残しています。

ですが、古代や中世のヨーロッパでは、宗教や権威が強く、自然現象や人間の心についても「聖書の教え」「権威ある学説」が絶対の基準になりがちでした。

しかし、中世後期になると、ヨーロッパ社会は少しずつ変化していきます。

ルネサンスの頃には、神学中心の世界観から人間中心の世界観へと関心が広がり、古代ギリシャ・ローマの文献を読み解きながら、新しい学問の姿勢が芽生えはじめました。

その流れの中で、「自分たちの目で見て、耳で聞いて、手で触れたものを確かめよう!」という動きが少しずつ高まっていきます。

近代科学の発展

中世末から近世にかけて、コペルニクスやガリレオ・ガリレイ、ケプラーなどが天文学や物理学で画期的な発見を行い、近代科学の扉を開きました。

これらの学者たちは、聖書や権威ある学説に頼らず、自ら観察や実験を行い、実際のデータ(経験)を積み重ねて結論を導きました。

こうした「経験から導く」という手法こそが、のちに経験主義と呼ばれる流れの基礎になっていきます。

こうした科学的手法の変化が同時に哲学の世界にも影響を与え、知識の源泉を「経験」に求める考え方が徐々に主張されるようになりました。

主張した思想家&象徴するイベント

フランシス・ベーコン(Francis Bacon, 1561-1626)

「経験主義」の流れを語るうえで、欠かせない人物がイギリスの哲学者フランシス・ベーコンです!

彼は「知識は力なり」という有名な言葉を残しました。

ベーコンは、それまでの学問が「古代の権威」に頼りすぎていることを批判し、自然を観察し、実験を通して事実を積み上げていくことで真の知識に到達できると説きました。

ベーコンの代表的な著作『ノヴム・オルガヌム(Novum Organum)』では、人間が陥りやすい偏見や誤謬(ごびゅう)を「イドラ(偶像)」という概念で整理しています。

イドラを取り除き、経験を重視した方法で知識を得ることこそが、学問の発展と人類の進歩に繋がるという考えを打ち出したのです。

こうした彼の姿勢が、後の経験主義思想家たちに大きな影響を与えました。

ジョン・ロック(John Locke, 1632-1704)

ベーコンの後、やはりイギリスの思想家ジョン・ロックも、経験主義を体系的に整理した人物として知られます!

ロックは、人間の心は生まれたときに「白紙(タブラ・ラサ)」であり、あらゆる知識や観念は経験を通して形成されると主張しました。

これは彼の主著『人間知性論(An Essay Concerning Human Understanding)』で示された考え方で、人間の知識は感覚的な経験からスタートし、その後、思考や反省によって組み立てられていくというものです。

この「白紙」説は、当時としては衝撃的でした。

なぜなら、それまでは「生まれつきの概念」や「神から与えられた理性」が人間の知識の源であると考える人が多かったからです。

生まれたばかりの赤ちゃんには先天的なアイデアはなく、成長の過程で外界から学ぶ!」というロックの主張は、その後の教育論や心理学にも深い影響を与えることになります。

ジョージ・バークリー(George Berkeley, 1685-1753)

ジョージ・バークリーは、ロックの流れを受け継ぎながらも、より大胆な方向へ踏み込んだことで有名です!

彼は「存在するとは知覚されることである(Esse est percipi)」という言葉で知られ、「私たちが知る世界は、私たちの感覚や意識に現れるイメージそのものだ」という極端な主観主義を説きました。

バークリーはあくまでも「経験」から学ぶことを重視する立場ですが、「外の世界」が独立して存在しているかどうかさえ疑問視しました。

このように、「経験を大切にする」とは単純に聞こえますが、「では、経験って何を指すのか?」と掘り下げていくと、一気に奥が深い議論になってしまうのです。

デイヴィッド・ヒューム(David Hume, 1711-1776)

イギリス経験論の総仕上げといわれるのがデイヴィッド・ヒュームです!

ヒュームは、ロックやバークリーらが突き詰めた「経験に基づく知識」をさらに徹底しました。

その結果、「私たちが「因果関係」だと思っているものは、本当は単に、ある出来事のあとに別の出来事が繰り返し続いていることから生まれた思い込みにすぎないのではないか?」と主張したのです。

たとえば、火をつけたら紙が燃えた、という出来事を何度も見ているうちに、「火をつけると紙は必ず燃える」という因果関係を想定してしまいます。

しかし、これは実は「原因⇒結果」という確固たるつながりを見出したわけではなく、経験を通じて私たちが「そうにちがいない!」と思い込んでいるに過ぎないかもしれない、とヒュームは問いかけました。

このようにヒュームは、経験を重視するという立場から始まりながら、因果関係や実在すら疑問視するところまで徹底してしまったのです。

結果として、近代哲学の議論を大きく揺さぶりました。

象徴的なイベント:科学革命とイギリス経験論

「経験主義」が広がった背景には「科学革命」がありました。

ベーコンらが提唱した「実験や観察による事実の積み上げ」こそが近代科学の確立に大きく寄与したのです。

ガリレオが望遠鏡を使い、ケプラーやニュートンが数学的な法則を見いだしたことは、当時としてはとても新鮮な進め方でした。

この流れを受け、イギリスを中心に経験主義が確立

ベーコンからロック、バークリー、ヒュームへと続く「イギリス経験論」は、それぞれ微妙に考え方が異なりつつも「人間の知識は経験から得られる」という大筋で共通点を持ち、「合理主義(フランスのデカルトやドイツのライプニッツなど)」との激しい論戦を繰り広げました。

この両者の思想的な対立と発展が、近代哲学を大きく前に進めたのです!

経験主義が後世に与えた影響

近代科学・啓蒙思想への影響

経験主義が後世に与えたインパクトで特に大きいのは、「近代科学の基盤を支えた」という点でしょう。

何かを証明するときに、実験や観察の結果を重視する科学的手法は、経験主義の精神そのものです!

そのため、17世紀以降に急速に発展していった物理学や化学、生物学などの自然科学は、経験主義の考え方なしには実を結ばなかったかもしれません。

また、18世紀の啓蒙思想にも影響を与えました。

社会や政治を考える際に、実際の社会の状況を観察し、統計をとり、具体的な実態から議論を組み立てるというスタンスが重要視されるようになったのも、経験主義の影響があります。

さらに、経済学社会学などが発展する原動力となり、理論だけでなく実地調査のデータを基にした分析が重んじられるようになりました。

教育論・心理学への貢献

ロックが唱えた「白紙(タブラ・ラサ)」説は、教育学や心理学の面でも大きな反響を呼びました!

生まれつきの才能や素質だけでなく、教育や経験を通して人は変わっていく」という発想です。

これは教育の重要性を強調すると同時に、心理学の分野では「学習理論」や「行動主義心理学」の方向性にも影響を与えました。

のちにパブロフやワトソン、スキナーなどの研究者が行動主義心理学を展開していくうえで、ロックの「経験重視」の考え方はある意味で先駆けといえるかもしれません。

哲学的懐疑論を深めた

一方で、ヒュームが指摘した「因果関係の懐疑」は、哲学のみならず科学の世界にも大きなインパクトを与えています!

「私たちは本当に世界の真実を知ることができるのか?」という懐疑のまなざしを引き起こし、近代以降の哲学を先鋭化させました。

カントが「ヒュームの懐疑論によって、独断のまどろみから目覚めさせられた」と語ったのは有名なエピソードです。

つまり、ヒュームの経験主義は、そのままでは到底解決しきれない問題を露わにし、次の世代の哲学者に新たな課題を突きつけたわけです。

こうした「経験主義⇒懐疑論⇒批判哲学」の流れは、後の哲学や科学方法論をより緻密に鍛え上げるきっかけともなり、私たちが当たり前に行っている「データ・ドリブン」な姿勢や、「経験を通して検証する」という習慣にも繋がっているといえるでしょう。

まとめ

ここまで「経験主義とは何か?」を、歴史的な背景から主張した思想家、そして後世への影響までご紹介してきました。

改めて整理してみると、経験主義がここまで人類の思考方法や学問の体系を変えてきた背景には、

  1. 古代・中世における権威や聖書への依存からの脱却
  2. 近代科学の発展を支える「実験・観察」重視の姿勢
  3. ベーコンをはじめ、ロックやバークリー、ヒュームによるイギリス経験論の整備
  4. 啓蒙思想や教育論への波及、さらには哲学的懐疑論を深める役割

といった要因が挙げられます。

とくに「イギリス経験論」という一大潮流が、ヨーロッパ全土での思想的対立を活性化させたことは大きなポイントです。

理性(合理主義)を重んじるデカルトやライプニッツとの応酬のなかで、「知識はどこから来るのか?」「人間はどうやって世界を認識するのか?」という根本的な問いに対してさまざまなアプローチが生まれました。

また、今日の「科学的なものの見方」は、経験主義の恩恵を十二分に受け継いでいます。

たとえば医療における「エビデンス(根拠)ベースの治療」や、社会の課題を解決するための「データ分析」などは、経験主義の精神なくして語れません。

数百年前に生まれた哲学的議論が、今もなお私たちの思考を支えているのです!

いかがでしたか?「経験主義」の話は単に「経験が大事だよね」というだけの説ではなく、歴史的に見ても哲学界や科学界を大きく前進させ、教育や社会のあり方にも深い影響を与え続けてきました。

経験主義と対になる形で語られる「合理主義」の側にも面白い議論が盛りだくさんなので、ぜひ興味のある方はあわせて読んでみてくださいね。

自分で実際に学び、経験していくことで、より理解が深まるかもしれません!

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