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集団主義とは?背景やその思想をわかりやすく解説!

2025年1月20日

はじめに:集団主義とは?

「集団主義」とは、一言でいえば「個よりも集団を重視する考え方」を指します。

私たちの身近なところでも、家族や友人、学校のクラス、職場のチームなど、さまざまな集団の中で生活していますよね。

そうした集団の利益や目的を優先し、個人よりもグループ全体を大切にするという考え方が「集団主義」です。

例えば、「個人の意思よりも家族の都合を最優先する」「会社の利益のためには個人的な事情を後回しにする」など、さまざまな場面で集団主義的なマインドセットが表れることがあります。

多くの方が日本社会では「和を以て貴しとなす」という意識に触れたことがあるのではないでしょうか?

日本は、世界的に見ても比較的集団主義の色合いが強い社会として知られてきました。

しかし「集団主義」とひとくちに言っても、地域や時代によってその意味合いは微妙に異なりますし、強調されるポイントも変わります。

では、そもそもどのようにして生まれてきた思想なのでしょうか?

そして、どんな歴史的背景と出来事、思想家の影響があって発展してきたのでしょう?

今回はそこを詳しく見ていきたいと思います!

集団主義の歴史的背景:なぜ生まれたのか?

古代における共同体意識の萌芽

集団主義のルーツをたどると、実は人類の文明発展とほぼ同じくらい古い歴史を持っているといえます。

古代の狩猟採集社会では、個々人が単独で生き延びるのは非常に困難でした。

猛獣から身を守り、食料を集め、外敵から共同体を守るためには、やはり人々が「集団として協力する」ことが必要不可欠だったのです。

当時はまだ「集団主義」などという言葉はありませんが、集団全体の生存を最優先に考える意識が自然発生的に醸成されました

例えば、古代ギリシャでは都市国家(ポリス)という「共同体」を成り立たせるため、市民同士が協力し合う概念が重要とされてきました。

儒教思想が根付いた古代中国でも、「家族」や「郷里」などの単位でみんなが助け合うのが当たり前でしたね。

これらが集団主義の根本となる考え方の一端です。

ぴろき

あらゆる生物の中で人間がここまで大きな力を獲得した最も大きな理由は、「集団で行動できること」だと言われているよ!

封建社会と身分制による集団意識の強化

やがて歴史が進み、中世ヨーロッパや日本の封建社会などが成立すると、「共同体」の単位が村落や領地、藩や家といった形でさらに細分化されました。

この時代には、厳格な身分制度や家父長制、村社会などが形成され、それぞれの集団の中で秩序を保つことがとても重要視されました。

このような社会では、個人の自由や個別の利益よりも、封建的秩序や身分制を前提とした「集団内の安定」を最優先にする風潮が自然に生まれやすくなります。

特に日本においては、江戸時代に「五人組」などの相互監視システムが存在したことも、個々の自由よりも集団の一致団結を促す要因となりました。

こうした歴史的背景が、近代に至るまでの集団主義的な価値観を培ったといわれています。

産業革命と国民国家の形成

18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命によって、ヨーロッパでは大量生産や都市部への人口集中が進みました。

これに伴い、人々は「共同体」という小さな集団だけではなく、「国」という大きな単位での連帯を意識するようになっていきます。

フランス革命アメリカ独立革命など、国民国家の成立過程では、一致団結して外敵と戦う、あるいは権力と戦うという状況が多々ありました。

このように「国」が単位となる集団意識が育まれたことも、近代の集団主義の大きな源流の一つと考えられます。

一方で、資本主義が台頭する中で、個人の自由や権利を尊重する「個人主義」も急速に広まっていきました。

「集団主義」と「個人主義」は対立する概念のようにも見えますが、実際の社会では両方がせめぎ合いながら併存し、社会の価値観を形作ってきたのです。

集団主義を主張した主な思想家たち

集団主義に関しては、歴史上さまざまな思想家が多角的に議論を展開してきました。

ここではその中でも特に著名な人物や、その思想の特徴をピックアップして解説します!

ルソー(Jean-Jacques Rousseau)

フランスの啓蒙思想ルソーは、社会契約論の中で「一般意志(Volonté générale)」という概念を提唱しました。

これは「公共の利益」を指す言葉であり、個人の意志を超えて社会全体の利益を追求することを理想としています。

ルソー自身は必ずしも「集団主義」を直接的に説いたわけではありませんが、その「一般意志を尊重すべき」とする考え方は、後世に集団主義的な解釈や社会主義思想などにも影響を与えました。

マルクス(Karl Marx)

近代の社会主義・共産主義の祖であるマルクスは、資本主義を批判し、階級闘争を通じて「無階級社会」を実現することを目指しました。

マルクスが理想とした社会では、生産手段を共有し、労働者が団結することで搾取をなくそうとします。

これは非常に強い「集団主義的」な要素を含んでおり、後にソビエト連邦や中国の社会主義体制など、多くの国や思想運動に影響を与えました。

エミール・デュルケーム(Émile Durkheim)

社会学の創始者とされるデュルケームは、社会を「有機的連帯」と「機械的連帯」の2つの概念で説明しました。

深入りはしませんが、人々がばらばらの生活を送っている集団が有機的連帯、ある種ルーティン化された生活を送っている集団が機械的連帯、と思っていただければ大丈夫です。

特に伝統的社会が持つ「機械的連帯」は、人々が同質な価値観や行動様式を共有することで成立すると説きました。

これは集団主義的な社会のあり方に近く、個人が共同体に対して強い帰属感を持つことで秩序が維持される、と考えられています。

孔子(Confucius)と儒教

中国の思想家・孔子は、紀元前の時代に「仁」と「礼」を重んじる儒教思想を打ち立てました。

そこでは、家族や社会をまとめる秩序を重視し、目上と目下がそれぞれの役割を守ることで調和を保つことを説きました

これも、より大きな枠組みの「集団」を大事にし、個人の欲求が集団の和を乱すことを戒めるという側面が見られます。

儒教の影響は東アジア一帯に広がり、日本にも大きく浸透しましたね。

その他の思想家

その他にも、全体主義的な色彩が強い思想を唱えた人物として、20世紀前半に台頭したファシズムの指導者たち(例:ムッソリーニ、ヒトラー)も挙げられます。

彼らは極端なナショナリズムや国家主義を掲げましたが、その根底にあるのは「個人よりも国家を絶対優先する」という極端な集団主義の一形態ともいえます。

もちろん、思想家や政治指導者によって定義や目的は異なりますが、いずれも「個人より集団を優先する」という部分において集団主義の概念とつながっているのです。

集団主義を象徴するイベント

集団主義の考え方が歴史上強く表れた象徴的なイベントとして、いくつかを挙げてみましょう!

ソビエト連邦の成立(1917年のロシア革命)

マルクスの思想を基盤に、レーニンやトロツキーらが指導したロシア革命は、帝政ロシアを倒し、世界で初めて社会主義政権(のちのソビエト連邦)を生み出した歴史的大事件です。

資本家や貴族の支配を打ち破り、「労働者・農民の連帯」による政治を標榜したことは、まさに集団主義的な動きといえます。

実際にその後のソビエト連邦では、国家が生産手段を管理し、市民が集団として計画経済を支えるという制度設計が行われました。

ただし、実際にはスターリン体制の下で独裁が進み、個人の自由は大きく制限されてしまったことも事実です。

ここからわかるように、「集団主義」には必ずしもポジティブな面だけでなく、抑圧や独裁と結びつく危険性もあるといえるでしょう。

中華人民共和国の文化大革命(1966年〜1976年)

毛沢東が率いた中国共産党もまた、社会主義・共産主義の実験を大規模に行った例として知られています。

その中でもとりわけ「文化大革命」は、国全体を巻き込んだ大変革でした!

毛沢東の思想を絶対視し、紅衛兵と呼ばれる若者たちが「反動的」とみなされるものを弾圧するなど、個人よりも党や毛沢東の指導を絶対とする極端な集団主義が横行したといえます。

結果として、中国社会は大混乱に陥り、経済の停滞や文化破壊が進み、多くの人々が被害を受けました。

このイベントを通じて、極端な集団主義の暴走がどれほどの悲劇を生むかという教訓が広く知られるようになったともいえます。

第二次世界大戦下の国家総動員

第二次世界大戦期においては、ドイツや日本などの国々で「国民全員が国家の目標達成のために動員される」という体制が確立しました。

特に日本では、「大東亜共栄圏」の構想のもとで戦争を継続するために、個人の自由や権利よりも「国民としての義務」が最優先される風潮がありました

国策に反対することは難しく、多くの国民が一体感や協力を強制的に求められたのです。

これらの出来事は、後世において「個人が集団のために尽くすべきなのか?」「国家の大義のために個人の人生を犠牲にしていいのか?」といった問いを突きつけるきっかけにもなりました。

戦後には、こうした集団主義の暴走への反省から、世界各国で人権や自由を尊重する考え方が一層クローズアップされることになります。

集団主義が後世に与えた影響

集団主義は、歴史的な出来事を通じて多様な形で社会や文化に影響を与えてきました。

その影響はポジティブな面もあれば、ネガティブな面もあります。ここでは、その代表的な影響を整理してみましょう。

ポジティブな影響

協調性や互助精神の醸成

集団全体の目標や利益を優先することで、メンバー同士が協力し合う精神が育ちやすいです。

近所付き合いや、企業のチームワークなど、連帯感を高めるうえでは大きな利点といえるでしょう。

社会的安定や秩序の維持

多くの人が共通の価値観やルールを共有する場合、社会秩序が維持されやすくなります。

これは大規模災害時など、個人の力だけでは対応しきれないときに力を発揮します。

「助け合い」の精神は危機を乗り越えるうえで非常に重要です。

大規模プロジェクトの実行力

産業革命や戦後復興など、大きな課題に対して国や組織が一丸となって取り組む場合、「集団主義的マインドセット」が機能すると成果が出やすい面があります。

日本の高度経済成長期も「会社のために尽くす」「みんなで協力して働く」など、集団主義的な考えが経済成長を支えた面もあるとされます。

    ネガティブな影響

    個人の自由や人権の抑圧

    極端な集団主義が暴走すると、個人の思いや多様な価値観が尊重されなくなる可能性があります。

    歴史を振り返ると、全体主義国家や社会主義国家での言論統制や思想統制など、個人が弾圧される事例も少なくありません。

    イノベーションや創造性の阻害

    集団に合わせることが最重要視されると、新しいアイデアや少数派の意見が否定されやすくなります。

    多数に従わない人が排斥される風潮が強くなると、革新的な発想が生まれにくい環境になってしまうのです。

    集団圧力や同調圧力の増大

    「空気を読む」「波風を立てない」といった考えは一見穏やかに見えますが、これが過剰になると心理的負担を抱える人が増えてしまいます。

    日本ではしばしば「村八分」「いじめ」などが社会問題として取り上げられますが、これも集団主義的な同調圧力の副作用の一面といえるでしょう。

    現代社会における集団主義の課題と展望

    歴史を振り返ると、集団主義が大きく機能する場面と、負の影響をもたらす場面の両方が見られます。

    それでは現代社会において、私たちはどのように集団主義と向き合い、バランスを取っていくべきなのでしょうか?

    多様化する社会との両立

    現代は国際化が進み、人種・宗教・文化背景が異なる人々が同じ社会で共存しています。

    また、ジェンダーやLGBTQ+など、多様な生き方や価値観が認められるようになってきました。

    こうした多様な人々が同じ組織やコミュニティで活動する中では、あまりに強い集団主義があると、多数派の価値観に合わない少数派が排除されかねません。

    したがって、多様な意見や価値観を容認しつつ、なおかつ共同体としての連帯感を保てるような「ゆるやかな集団主義」が求められます。

    テクノロジーの進歩と個の重要性

    インターネットやSNSなどのテクノロジーの発達によって、個人が発信力を持てる時代になりました。

    会社に所属しなくてもフリーランスや起業をして成功する人も増えています。

    これらのトレンドは、集団主義よりも個の独立性や多様性を重視する方向へと社会を変えつつあります。

    しかし同時に、グローバルレベルでの課題(気候変動や感染症対策など)には、国家や企業、個人が一丸となって取り組む必要がありますよね!

    「問題解決のためには集団での協力が不可欠である」という点もまた、テクノロジーの進歩によって変わらない現実です。

    個人主義との新たな融合

    集団主義と対比される個人主義ですが、現代では「個人の自由を尊重しつつ、集団でも協力する」というハイブリッドなアプローチが模索されています。

    これを実現するには、強制や抑圧ではなく、個々人が自発的に集団への貢献を選び取れる仕組みが大切です。

    そのために「誰もが意見を言いやすい環境を作る」「少数派の声を丁寧にすくい上げる」「情報をオープンに共有する」などの企業文化や社会制度の整備が求められます。

    まとめ

    いかがでしたでしょうか? 集団主義は、私たちが生まれてから常に身近にありながら、そのルーツや思想的背景、歴史的イベントなどを深く考える機会はあまり多くないかもしれません。

    でも、こうして振り返ってみると、集団主義は人類社会が繁栄していくうえで重要な役割を果たしてきた一方で、極端化すると個人の権利が抑圧されるリスクも抱えています。

    • なぜ集団主義が出てきたのか?
      → 古代から共同体を維持しようとする人間の本能的な側面や、封建社会や国民国家の形成などの歴史的要因が背景にある。
    • 集団主義を主張した思想家は?
      → ルソーの「一般意志」、マルクスの共産主義、儒教の家族主義など、多様な形で「個よりも全体を重視する」思想が展開されてきた。
    • 象徴するイベントは?
      → ロシア革命や文化大革命、第二次世界大戦下の国家総動員など、国家レベルで極端な集団主義が実践された事例がある。
    • 後世に与えた影響は?
      → 協調性や秩序維持などのメリットがある反面、個人の抑圧やイノベーションの阻害につながる危険性も指摘されてきた。

    現代では、個人主義が重視される社会環境の中でも、コミュニティ単位での連帯は依然として重要です!

    これからも「集団主義」と「個人主義」のせめぎ合いは続いていくでしょう。

    その中で私たちは、過去の事例から学びながら、自由を尊重しつつも相互協力を活かすバランスを見つけていく必要があります。

    改めて、集団主義について深く考えてみることで、日々の生活や仕事での関係性づくりに役立つかもしれませんね。

    ぜひ、この機会に集団主義を一歩踏み込んで理解し、自分の考え方とのすり合わせをしてみてください!

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