世界の歴史

ナショナリズムとは?初心者にもわかりやすく解説!基礎から理解

はじめに

私たちが暮らす社会には、国や地域ごとに異なる文化や歴史、言語など、さまざまな特性があります。

これらを自分たちのアイデンティティの一部として大切にしながら、他国や他の文化に対する意識を持つことは、とても自然なことです。

しかし、この「自分たちと他者との違い」をどのように捉えるかによって、国際社会の中での振る舞いや、人々どうしの関係性も大きく影響を受けます。

そんな「自分たちの国や民族を大切にしよう」という意識が高まるとき、人々はしばしばナショナリズムという言葉を使います。

「ナショナリズム とは?」と改めて尋ねられたとき、意外に説明するのが難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、ナショナリズムの基礎的な意味や歴史的背景、そして現代における問題点や可能性について、なるべくわかりやすく整理してみたいと思います!

ナショナリズムとは何か?

ナショナリズム(nationalism)という言葉は、日本語では「国家主義」「民族主義」と訳されることが多いです。

ただ、この言葉にはさまざまなニュアンスがあり、ひとつの説明にきちんと収まり切らない部分もあるのが実情です。

シンプルな定義

もっともシンプルに言えば、「自分が所属する国や民族などを重視し、その利益やアイデンティティを守ろうとする意識」を指します。

たとえば、日本人であれば日本の文化や伝統を誇りに思い、日本の国益を大切に考えること。

アメリカ人であればアメリカ合衆国の価値観や自由を重んじること。

これらがナショナリズム的な考え方の根底にある、とイメージするとわかりやすいでしょう。

パトリオティズム(愛国心)との違い

ナショナリズムと似た言葉で「パトリオティズム(patriotism)」というものがあります。

パトリオティズムは「愛国心」を意味し、自分が属する国に敬意や愛情を持ち、積極的に応援したり誇りを感じたりする気持ちを表すものです。

  • パトリオティズム:自分が所属している国を愛する感情
  • ナショナリズム:自分の国や民族を他と区別し、優先・最重視する立場

両者はとても近い概念ですが、ナショナリズムはどちらかと言えば、国の利益を守ろうとするときに他国や他者との関係が対立的になりやすい特徴を持っています。

それに対してパトリオティズムは、自分の国が好きで応援しているが、他国を尊重する余地も残している場合が多いとされます。

ナショナリズムの歴史的背景

ナショナリズムが誕生し、広く意識されるようになったのは比較的新しい歴史的現象です。

中世ヨーロッパなどでは、人々は「領主や王に従う」という意識が中心でした。

民族や言語に対する帰属意識もありましたが、近代的な「国民国家(nation-state)」の概念はまだ形成されていなかったのです。

フランス革命とナポレオン戦争の影響

ナショナリズムが大きく花開いたひとつのきっかけは、18世紀末のフランス革命です。

それまで貴族や王族が支配していた社会で、国民自身が「自分たちで国を作る」という意識を持ち始めました。

「国民=主権者」という考え方が普及していく中で、フランスの人々はフランス国家を守るために一致団結しようとします。

さらにナポレオン戦争の時代には、ヨーロッパ中がフランス軍に対抗したり、逆にフランスと一緒になったりする形で国民意識を刺激されました。

これによって「自分たちの国」や「自分たちの民族」を明確に意識し始める人々が増え、ナショナリズムが広がっていったとされています。

19世紀の民族統一運動

19世紀になると、イタリアやドイツなどが複数の小国から統一国家へとまとまる過程で、ナショナリズムは大きな原動力となりました。

たとえば、それまでバラバラだったドイツ諸邦がひとつの国としてまとまろうとする際、「私たちは同じ言語や文化を共有しているドイツ民族だ!」という主張が高まったのです。

こうした民族統一運動は、ヨーロッパ以外の地域にも波及し、多くの国や民族が独立や統一を目指す際の理論的な背景ともなりました。

ナショナリズムの特徴と多面性

ナショナリズムは単純に「国を大事にしよう!」というだけの思想ではなく、さまざまな形をとります。

ここからは、ナショナリズムの特徴をいくつかの視点から整理してみましょう。

文化的ナショナリズム

文化的ナショナリズムは、「自国や民族の文化・伝統を守りたい」という想いを前面に打ち出したものです。

国によっては、音楽や芸術、食文化などを中心に、自分たちのルーツを大切にする動きが強まることがあります。

たとえば「着物を復活させよう」「伝統的な祭りを盛り上げよう」といった活動は、文化的ナショナリズムの一例と考えられます。

文化的ナショナリズムは、海外に対しても自国の文化を誇りに思い、積極的にアピールする姿勢が見られることがあります。

現代ではSNSなどを通じて情報がグローバルに発信されるため、自国の文化が世界中で注目されたり、愛好されたりすることも少なくありません。

政治的ナショナリズム

政治的ナショナリズムは、自分たちの国の政治的権利や主権を強化・拡大しようとする動きです

これは、国内政策だけでなく国際関係にも影響を与えやすく、ときには他国への排他的な態度や、軍事力の強化を求める動きにつながる場合もあります。

第二次世界大戦前後には、政治的ナショナリズムが極端な形で表れるケースがいくつもあり、国際的な対立や悲劇の一因となった面も指摘されています。

現代でも、移民や難民の受け入れを厳しく制限したり、国際協力よりも自国の利益を優先する政策をとる政党や指導者が登場することで、政治的ナショナリズムが注目されることがあります。

経済的ナショナリズム

経済的ナショナリズムは、自国の経済成長や自国企業の保護を優先し、他国との経済的つながりよりも国内の雇用や産業を守ろうとする考え方です。

保護主義的な貿易政策(関税の引き上げや輸入規制など)をとったり、外国企業の参入を制限したりすることで、自国の経済を強化しようとします。

一方で、グローバル化が進む現代では、経済的ナショナリズムが過度に強まると、国際貿易や投資が縮小してしまい、長期的には自国の経済成長に悪影響を及ぼすリスクもあると指摘されています。

ナショナリズムがもたらすメリットとデメリット

ナショナリズムが高まることは、一概に「良い」「悪い」と言い切れない複雑な側面を持っています。

ここでは、メリットとデメリットを整理してみましょう。

メリット

国民の団結力の向上

国や民族への帰属意識が高まることで、人々が共通の目標に向かって協力しやすくなります。

たとえば、災害が起きたときに「同じ国民として助け合おう!」という気持ちが強まると、支援や復興活動がスムーズに進むことがあります。

文化や伝統の保護

ナショナリズムをきっかけに、自国の文化や伝統を見直す機運が高まり、衰退しかけていた芸能やお祭りなどが再評価される場合があります。

「失われつつある文化を取り戻そう」という動きは、地域活性化にもつながりやすいです。

国家の独立や統一の推進

歴史的に見ても、植民地支配からの独立や、分裂状態からの統一を進めるうえで、ナショナリズムは大きな役割を果たしてきました。

多くの人々が「私たちは同じ国民・民族だ!」というアイデンティティを共有することは、政治的な変革を後押しする強力なエネルギーとなります。

    デメリット

    他国・他民族への排他性や差別

    ナショナリズムが強くなると、「自国こそが優れている!」といった排他主義が高まりやすくなります。

    極端な場合、外国人や他民族への差別・偏見が正当化される可能性があるのは大きな問題です。

    国際協力の停滞

    自国の利益を最優先するあまり、気候変動や感染症対策など、グローバルな問題に十分な協力体制が取れなくなるリスクがあります。

    国際社会では、多国間の連携なしに解決が難しい課題が多いため、ナショナリズムの高まりが国際的な取り組みを阻害してしまうかもしれません。

    戦争・紛争のリスク増大

    ナショナリズムが極端化すると、領土問題や歴史問題をめぐって対立が深まり、武力衝突につながる可能性があります。

    過去には、ナショナリズムが先鋭化した結果、悲惨な戦争が繰り返されてきた歴史もあるので、注意が必要です。

    ぴろき

    2025年1月にはナショナリズムの側面が強いトランプ政権が発足するなど、世界的に重要なトレンドになってきているね。メリット・デメリットを抑えておくことで、各国の戦略や日本への影響を予測しやすくなるね!

    グローバル化時代のナショナリズム

    21世紀に入り、テクノロジーの進歩によって世界はますます「地球規模の一体化=グローバル化」へと向かっています。

    人やモノ、お金、情報が国境を超えて大量に移動するようになると、人々の暮らしや価値観は大きく変わります。

    しかし、その反面、「自分たちの仕事が海外の人に奪われるのでは?」「自分たちの文化が壊されるのでは?」という不安や抵抗感も生まれがちです。

    こうしたグローバル化の波に対する反動として、ナショナリズムが再び強まる動きが各地で見受けられます。

    多文化共生とナショナリズムのはざま

    多文化共生を推進しようとする動きは、「国籍や民族が違っても、互いを尊重しながら一緒に生活していこう!」という姿勢を大切にします。

    一方、ナショナリズムが強まると、「自分たちの文化や仕事が脅かされないか?」という意識から、移民や難民を排斥するような主張も生まれやすくなります。

    この両者のバランスをどう取っていくかは、多くの国が直面する大きな課題です。

    世界規模での人権意識の高まりや、経済・政治の連動性の強化などを踏まえて、「自国のアイデンティティを守りながら、他者や多様性を排除しない形のナショナリズム」を模索する必要があるでしょう。

    ナショナリズムと個人の付き合い方

    ここまでナショナリズムの歴史や特徴、メリット・デメリットを見てきましたが、私たち個人はナショナリズムとどう向き合っていけばよいのでしょうか?

    自己確認としてのナショナリズム

    ナショナリズムは、自分がどこの国や文化圏に属するのかを再確認し、そこに愛着を持つきっかけともなります。

    「日本人としての文化を誇りたい!」と感じるなら、その気持ちをポジティブに捉えて、伝統行事に参加したり、日本の歴史や文化を学んだりしてみるのも良いでしょう。

    ただし、その過程で「日本は素晴らしい、だから他国はダメだ!」という思考に陥らないように注意が必要です。

    自分のルーツを大切にすることと、他国・他民族を排除することは、同じではありません。

    批判的思考を忘れない

    ナショナリズムが高揚しているときは、メディアやSNSでも「自国を褒める情報」や「他国を悪く言う情報」が増えがちです。

    こうした言葉に流されるままに、自分の中で「そうだそうだ!」と感情を高ぶらせるのは危険です。

    情報を鵜呑みにせず、「本当にそうなのか?」「ほかに反対意見はないのか?」と批判的に考えるクセをつけましょう!

    多様性を認めながらアイデンティティを育む

    自国を大切に思うのと同時に、他国や異なる文化への理解を深めることは、決して矛盾するものではありません。

    「日本文化を愛しているからこそ、海外の文化にも興味がある」という視点はとても自然です。

    むしろ、さまざまな国の良さを知ることで、自分の国の特徴を改めて実感し、深く理解するきっかけになることがあります。


    まとめ

    ナショナリズムは、「自分たちの国や民族を大切に思う気持ち」の集合体とも言えます。

    その結果として、文化や伝統を守ったり、国民の結束を高めたりするポジティブな側面がある一方、他者への排斥や差別、国際的な対立へとつながるリスクも大いに抱えています。

    国を愛し、誇りに思う気持ちが、必ずしも悪いわけではありません!

    それが誰かを排除したり傷つけたりする方向に進まず、むしろ他国との違いを知り、より深く理解し合うための足がかりとなれば、ナショナリズムは建設的な力へと転換できるでしょう。

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